「夢二が愛した 秘伝の味」

 二寧坂の坂道を散歩していたら、ふっと見つけた甘味処「かさぎ屋」に入ってみた。明治時代の建物で、なかに入ってみるとタイムスリップしたようだ。店の名物は、「京都ぜんざい-田舎しるこ-」(650円)=写真左=。ちっとも甘ったるくなくて透き通るような甘さだ。炭火で焼いた餅の焦げと小倉の甘みが、口のなかでよく馴染む。餅の上に小倉をふんだんに乗せた「亀山」(800円)=Menu上=は、箸で小倉をすくってもすくっても餅が見えてこないほど。三色おはぎ(650円)=Menu中央=などと合わせて常連客の人気メニューだ。

全て手作りなので、品数は7品のみ。夏になるとかき氷も食べられる。嫁いできてから40年以上店に立つ3代目の早川良子さん=写真上から3番目=は、「一般的な砂糖は使っていません。そこは企業秘密です」と柔らかな笑顔を見せた。

 店は大正3年に創業し、現在の店主は4代目で、もうじき102年目を迎える。もとは、清水寺の参拝客のために店を建てた。かつて隣には、美人画として一世を風靡した竹久夢二が住んでおり、好物のお汁粉を食べに、かさぎ屋へ通っていたそうだ。店に入ってすぐ左手の壁には、夢二が描いた水墨画=写真下=も飾られている。

 なんとも京都らしいのは、すべての仕入先が初代から変わらないということ。新潟から取り寄せる白玉粉にはじまり、丹波の豆、宇治から取り寄せるおぶの葉っぱ。そして三年坂の陶器屋で注文している器は、創業当時から形や装飾まで、ずっと変わらない。店の奥に飾られている人形のお多福さんも、100年近く炭火の近くに座っていたおかげで顔が真っ黒。

 昔はカランコロンと下駄の音を立ててやってくる京大生や、祇園界隈から立ち寄るお客さんらも通っていたそうだ。芸能人なども多く、店の柱や天井にはあちらこちらに千社札が貼られている。この日は女性客で賑わっていたが、「コンニチワ」と片言の日本語を話すヨーロッパの男性客も入ってきた。

 「外国人も増えたり、この辺りの全てが変わった」と話す良子さん。そんな移り変わりが激しい二寧坂で、100年も続いている甘味処があることに浪漫を感じる。お汁粉のつぎに亀山も食べて、この日はお腹がはち切れそうになるほどいっぱいに。心もジンワリ温まった。今の時代でも、「ゴーンゴーン」と夕方5時を知らせる高台寺の鐘が街に溶け込んでいるように、かさぎ屋の味もたくさんの人に親しまれますように。
(写真下の左が、かさぎ屋)

かさぎ屋
075-561-9562
京都市東山区高台寺桝屋町349
営業時間:11:00~18:00
定休日:火曜日